第3部 パークアンドライドの今後

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第2章 これからのパークアンドライド

(1) パークアンドライドの困難さ

今まで実例で見てきたように、パークアンドライドといっても、試験段階であるところが多い。一般的に実施されているのは、上高地、金沢ぐらいであろう。例えば、上高地の成功には、地形的理由、観光目的の車をターゲットにしていること、駐車場の確保ができた、といった理由が挙げられる。さらに環境的な配慮がなされ、一般の観光客へも受け入れられ、実施の好条件がそろった。

この中で、一番大きな影響を持つのは前章のインタビューにもあるように、地形的な要因である。車の進入路が少ない方が車の進入を防ぎやすい。鎌倉や上高地は山に囲まれていて、車の進入路が限られている。また金沢市の場合は川によって進入路が少なくなる。それだけでなく、パークアンドライド駐車場にするための土地の確保や公共交通機関の充実といった諸問題が絡んでくるのである。土地の確保に関しても、日本のほとんどのところでは郊外にまで住宅地が広がり、駐車場として使用可能な土地が限られてくる。さらに、駐車場に車を停めたはよいが、代替の公共交通機関があと30分来ないというのでは、利用者の不満を招くであろう。これらの条件がそろわないと、例えば車の侵入は地形的に防げても、駐車場整備が不十分で結局渋滞は解消されない、などといった状況となる。

(2) 利用者の問題

さらに重要になってくるのは利用する人間そのものの問題である。インタビューで山内先生がおっしゃっていた様に、非日常の観光客のインセンティブは比較的変化しやすいが、日常の通勤客のインセティブは変わりにくいという問題である。

車というものは、ほぼ「door to door」を達成でき、利用者の利便性がとてもよい。パークアンドライドとは、その車の利点をあえて曲げて、途中で乗り換えという手間を取らせてまで、利用者が(仕方ないと思っていても)利用させる根拠というものが必要になってくる。そこで、利用者は車利用とパークアンドライド利用を両天秤にかける。そこで後者を選ぶ要因になり得るものを挙げてみると、駐車場の空き具合、公共交通機関の乗り換えまでの所用時間、公共交通機関の混雑具合、家から目的地までの所用時間、そしてパークアンドライドを利用した際にかかる費用、などさまざまな要因がある。このような利己的要因をクリアできれば、パークアンドライドの利用が促進されることは言うまでもない。しかし、実際問題として、利己的な個人の要望をすべて満たすのは不可能に近い。

(3) 利他的な個人の存在

利己的のみでは実行困難な問題に、利他的な精神を導入するということは、確かに個人のインセンティブを変化させるには弱い面もあるが、これからの日本にとっては必要なことである。すなわちパークアンドライドを渋滞問題解決のみを主眼に置くのではなく、環境問題とリンクさせるのである。例えば、ドイツのフライブルグ市は20年ほど前に「総合交通プラン」を作成し、長期的展望の交通対策を練っていた。その目的には「人本意の町作り」を目ざし、車の量を減らすことと同時に、大気汚染や騒音公害の防止を掲げるものであった。鎌倉市の交通施策には、フライブルグ市の前例が多分に取り入れられている。

前章インタビューの中で、根本先生が述べているように、「日本には環境保護のためというインセンティブを持ちにくい」ことに加え、山内先生の「利他的な理由は自己のインセンティブを変えるのに非常に弱い」ということは確かに動かしがたい事実である。しかし、鎌倉市の例のように、マスコミが積極的に取り上げることが一種の「啓蒙活動」的な役割を果たし、さらに、鎌倉市という小さな枠組みではあるけれど、行政や市民・関係者などによる研究会の存在は、研究会の提案を取り入れたパークアンドライドの実験を実施したことで、日本でも行政・市民の一体化した施策が可能なことを示しているといえよう。さらに、この鎌倉市の交通政策は、「環境自治体」を志向する市政方針の一環である点も重要である。

確かに鎌倉市の計画はまだ動きはじめたばかりであり、今後10年単位での動向を注視する必要があるし、最近このような「環境自治体」を志向する動きに批判的な眼も向けられている側面もある。ただ、これから「環境にやさしい」というような利他的行動をとる動きはヨーロッパ並みとはいわないまでも増してくる傾向にあることは、環境問題の逼迫した状況からも読み取れるであろう。そういう意味で、利他的個人の行動というものを政策遂行に際し、当てにしてもよいのではと考えるのである。

(4) TDMとパークアンドライド

とはいえ、実際にパークアンドライドのみでは、効果が薄い。山内先生が指摘されているように鎌倉市のパークアンドライド実験は、単に鎌倉市の交通政策の一つにすぎない。以下は、鎌倉地域地区交通計画(案)である。見てもらえばわかるように、パークアンドライドに加えて、ロードプライシングや歩行者専用道、ゾーンシステムといった内容も盛り込まれている。このようにして、さまざまな方法をミックスしていくことによって、渋滞問題をはじめ、居住環境の保護などの諸問題に対処していく必要があるといえよう。以上の計画はあくまで「案」であり、実現には、まだまだ高い壁がある。ロードプライシングにおける、法律の問題がその例である。

(5) これからのパークアンドライド

これからのパークアンドライドは、前の所で述べたように、TDMというものを活用して、ある一つの政策のみで問題を解決させようとするのでなく、いくつかの方法を組み合わせて行うのが理想であろう。パークアンドライドにはない効果、例えばITSの活用による移動経路の変更促進、ピークロードプライシングの導入による移動時間の変更、交通需要発生源の調整など、短期・長期的政策を織り交ぜて、様々な効果を期待できるような交通の総合的政策を作成していく必要があろう。パークアンドライドは、その総合政策の一つを担うものとして活用していくことになろう。


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Last modified: 2008/9/27

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