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前章ではパークアンドライドに至る都市交通政策の歴史と思想を追ってきたが、では「パークアンドライド」とは何であろうか。この章ではパークアンドライドの工学上の仕組みについて考えてみようと思う。
パークアンドライドはその名前の通り「止めて」そして「乗る」ことである。「止める」ものは自動車であり、「乗る」ものは電車やバスといった大量輸送機関である。様々な種類があるが、基本的な仕組みは対象となる大量輸送機関の乗り場(駅や停留所)のすぐそばに駐車場を設ける。人々はそこに自宅から自動車で寄せてきて、駐車場に自動車を置く。そして電車やバスに乗り換える。このときに人々がパークアンドライドを利用しようと思わせるために、駐車料金や大量輸送機関の利用運賃を割り引くなどの措置が執られるわけである。
パークアンドライドには大別して二つのパターンがある。一つは都市の入り口に駐車場を設け、都市部内は大量輸送機関で移動してもらうというパターンで、これはヨーロッパに多くみられる。今一つは都市近郊部の駅や停留所に駐車場を設け、大都市までは大量輸送機関で運ぶという場合である。
城壁都市型は都市の入り口に駐車場を設け、都心部に流入する自動車の量を規制する方法である。360度に展開する都市の入り口をいくつかに限る必要があるので自動車が勝手に流入しないよう障壁を設ける必要がある。たとえばヨーロッパの伝統ある都市には城壁が今でも残っていたり、あるいはウィーンのリンク通りのように城壁の跡を環状線に変えた道路があったりするが、これは障壁の代わりにある。日本ではヨーロッパのような城壁都市はあまりないので自然の地形に頼ることになる。「自然の要害」と呼ばれるような場所で利用可能である。最近実験が行われた鎌倉市は三方を山、南を海に囲まれており、入り口はいくつかの切り通しなどわずかなルートに限られている。まさに幕府が本拠を置くにふさわしいところであったが、パークアンドライドを実行するにも最適の地形といえるだろう。図のように入り口に関所と駐車場を設け江ノ電やバスに客を移すことが容易である。もし東京の都心部のように見渡す限り360度平野だったら、流入する自動車をせき止めることはできない。しかし自然の要害は雑兵だけではなく自動車も防ぐことができる。このように都心部への流入を入り口を制限してそこにゲートを設けることから、このタイプの方法を「城壁都市」型と呼んでよいのではないだろうか。
このタイプは都市の近郊部で電車やバスに乗り換えてもらい、そのまま都市に運ぶというパターンである。これは大都市に向かって通勤通学・買い物にいく人々の流れが比較的同じ方向を向いている場合にとられる。ここでは島根県宍道町ので自然発生的に実施されている例をみてみよう。
宍道町は宍道湖の西南端に位置しているが、さほど人口は多くない上に、人々は意外と分散して居住している。従って人々が通勤通学するためにバスを運行したところで採算がとれるはずがなく、人々は買い物にいくときも出雲市や松江市までは自家用車で国道9号線を利用することとなる。しかし国道9号は主要幹線道路であり、自家用車のみならず長距離輸送のトラックなどの交通量が多く、慢性的な混雑は免れない。だが宍道町には鉄道駅がある。山陰本線は国道に沿って走っているので、鉄道を利用しても松江や出雲に行くことができる。そこで宍道駅に駐車場を設け、鉄道利用者には無料で駐車してもらう。人々はそれぞれの玄関先から駅までは自動車で、そして宍道駅から都市の中心部までは混雑のない電車で行くわけである。これも一つのパークアンドライドである。このタイプは大都市へのルートが限られていて、その区間が比較的長い場合に効果が得られる。
いずれにしてもパークアンドライドはこれらの仕組みによって都市に流入する交通量を少なくし、都市内の交通の流れをなめらかにする働きがある。パークアンドライドはその一つであって、常に地の利を生かせるかどうかに成功の鍵はかかっている。
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Last modified: 2008/9/27
一橋大学鉄道研究会 ikkyotekken@yahoo.co.jp