第3部 交通整備の展望

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第1章 交通の選択

第1節 各選択肢

交通とは人・物・情報が、ある距離を隔てた地点の間を移動することを指す。そしていずれにせよ、その距離を移動するためには何らかの手段をとる必要が生じる。現在では人・物の移動は運輸(輸送)という形で、情報の移動に関しては通信という形で行われている。ここでは人・物の移動、特にそれらの高速交通に関する移動手段について焦点を当て考察していくことにする。

高速交通に用いられる交通手段としては、一般的には新幹線・高速道路・航空路が考えられるだろう。それでは、それぞれの手段は利用者側から見るとどんな特徴を持っているのだろうか。

まず新幹線であるが、大量輸送が可能なことや定時性を持つことがメリットとして挙げられる。つまり利用者側から見れば安定した輸送を期待できるのである。しかし新幹線は運行ダイヤがあるために、時間に拘束されてしまう。また現在では新幹線自体が全国に整備されているわけではないために、高速輸送手段として利用できる地域が制限されてしまう結果になっている。

次に高速道路であるが、自動車を使うことによる移動の自由性がメリットとして挙げられる。新幹線・航空路では出発点と到着点が定められていて、目的地までの移動を他の手段によって行う必要があるが、自動車は高速道路に併せて一般道路を利用すれば出発地点から目的地点までダイレクトに移動できる。また途中で予定を変更したりすることもでき、利用者が自分の思い通りに移動できる。さらには他人に煩わされずに移動の過程の中で自分だけの空間を生み出すことができる。しかし同じ距離を移動する場合、速さの関係で自動車による輸送は新幹線や航空路を利用したときよりも時間がかかる。また道路容量の関係で輸送量も限られてしまう。

最後に航空路であるが、飛行機を使うことによる高速性がメリットとして挙げられる。現在では地方でも空港が整備されるようになったため、より多くの利用者が飛行機による輸送を利用できるようになった。しかし輸送量が限られてしまう上にダイヤによる時間の拘束を受ける。また空港は一般的に用地確保の関係から空港が都市の中心地から離れたところに建設されている場合が多く、空港への移動、あるいは都市の中心地への移動に何らかの手段をとらなければならない。

以上のように高速交通における交通手段の特徴について考察してきたが、それぞれの交通手段が代替性を持ちつつも固有の特徴を持っていることが分かる。従って利用者からすると、利用可能な交通手段から自分のニーズに合わせて利用することができる。

第2節 建設の際の選択の条件

前節では利用者側からの高速交通の交通手段を見てきたが、ここでは建設する側からの建設するための交通手段の選択の条件について考察していくことにする。

高速交通手段を提供するときには、いくら利用者が便利になるからといっても、経済効果が低い場合、つまり交通のもたらす効果の割合が費用に対して小さい場合には、建設する側が不利益を被るために建設を行わないのが一般的な考えである。またある程度社会的に有益だと思われる公共事業には国や地方自治体が補助金を出すが、その事業は本当に有益であるかどうかについて慎重な検討が行われるべきである。

ある交通手段を選択して建設に取り組むとき、その地域の社会的・経済的な特性の他に、その交通手段の持っている特徴を建設する側の視点から理解することが必要である。そして総合的にその事業についての分析が行われれ、有益かどうかが判断されなければならない。それではどういったことが建設する側に考慮されることになるのだろうか。

まず通路施設の面から見ていくことにする。通路施設に関しては、高速道路・航空路は税収などに基づいた国や地方自治体の供給に依存している。また新幹線は全国新幹線鉄道整備法に基づいて整備計画が進められているが、建設費は国・地方自治体・JR各社の負担となっている。かつて鉄道はその路線を建設する企業が自ら通路施設の建設や維持を行っていたために、交通市場の競争上で鉄道が不利になることを懸念する、「イコールフッティング問題」という議論が1970(昭和45)年頃に起こった。もっとも現在の新幹線の建設計画は国側の方針として進められているため、JRのみに重い負担が課されることは考えにくい。しかし新幹線の建設の際に、投資の効率化や建設コストの削減、費用対効果の分析などが慎重に検討される必要がある。

次に環境に対する影響について見てみる。これは高速道路が最も環境に影響を与えるだろう。近年では自動車から排出される排気ガスによって、二酸化炭素濃度の増加・大気汚染・酸性雨問題などの環境問題が注目されるようになっている。また騒音問題なども考えられる。そのため高速道路を建設する際にはそういったことへ配慮し、必要に応じて多くのコストをかけなければならない。さらには自動車を作るにあたっても、低公害車の開発の推進などによる環境問題への対策が必要になってくる。

表3-1-1 低公害車の特性

車種 燃料 排出ガスの特性
メタノール自動車 主に天然ガスから生成されるメタノールが原料
→石油代替エネルギー性に優れる
・黒煙が全く排出されず、触媒によりCO, HCも少ない
・NOxが少ない
ハイブリッド自動車 減速時の制御エネルギーを回収(充電または蓄圧)し、加速時にエンジンを補助
→燃費が向上する
・CO, HC, NOx, 黒煙がいずれも少ない
・CO2が少ない
圧縮天然ガス(CNG)自動車 圧縮天然ガスが燃料
→石油代替エネルギー性に優れる
・黒煙が全く排出されず、触媒によりCO, NOxも少ない
・CO2が少ない
電気自動車 バッテリー充電した電力により走行
→原子力エネルギー等の利用により代替エネルギー性に優れる
・走行中に排出ガスが出ない

その他に用地について見てみる。用地を確保するには莫大な金が必要であり、また都市部ほど用地の確保に金がかかる。多くの空港が公害に建設されているのは騒音対策もあるだろうが、主には用地取得費用の関係によるものである。そのため空港に至るまでの交通手段の整備も必要になってくる。

以上のように高速交通手段を建設する側の視点から見てきたが、建設する側は利益の他にさまざまな要素を見ていく必要がある。また建設する側は、その交通手段を必要としているのは誰なのかということにも着目しなければならない。例えば、最近ではリニアモーターカーの開発が進み、東京−大阪間での営業が構想されているが、それは東京と大阪の大都市圏をより短時間で結んでほしいという需要に基づいたものである。しかしリニアモーターカーの路線を建設することは、そのような需要に応えるための最もふさわしい手段なのだろうか。そういったことを念頭に置いた上での検討が今後行われていくべきである。


→第2章「地域連携の将来」へ



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Last modified: 2008/9/26

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