第２部　モーダルシフトの効果

第３章　資源・労働力不足について

1　はじめに

モーダルシフトの可能性のなかで、環境・渋滞問題については先に述べた通りである。しかしながら、モーダルシフト推進による利点はそれにとどまらない。そして、ここでは省エネルギー化(以下省エネ)対策及び労働力不足対策としてのモーダルシフトを取り上げたいと思う。

現在日本においては様々な政治的問題が山積みになっているが、その中において省エネ問題および雇用問題ということは決して低くない地位を占めており、特に雇用問題に関しては、未来に向けて加速しつつある少子化をも視野に入れた長期的対策が求められており、また二度にわたるオイルショックを経験した日本において、省エネというものも従来から重要な国家政策の一つといっても過言でない。そのことは、先日のアラビア石油の操業問題において、政府の協力が限定的であったことがカフジ油田のサウジアラビアにおける権益失効につながったとされていることからも明らかであろう。モーダルシフトの推進は第2章で取り上げた環境問題のようなマクロ的な問題のみならず、このようないわばミクロ的な問題に対しても役に立つのである。

2　省エネについて

モーダルシフトによる省エネ効果というものは、昭和56年の運輸省政策審議会による答申のなかに初めて｢モーダルシフト｣という言葉が登場して以来のモーダルシフトの利点として捉えられており、むしろモーダルシフトの主目的ともいえ、今においてもその重要性はいささかも揺らぐところが無い。図2-3-1において示されているように、この20年間日本は国を挙げて省エネに取り組んできたにもかかわらず、絶対的な運送量の増加により運輸部門におけるエネルギー消費量は原油に換算して、 1973年度の4500万キロリットルから1996年度には9400万キロリットルに増加していて微増、もしくは減少すらしつつある他の部門とは対照的である。さらに由々しきことに、枯渇が心配されている化石燃料である石油に対する依存度が97％から98％に上昇している。このことは、石油に対する依存度がいまだ60％を下らない日本においては非常に重要な問題であろう。また、石油に代わる新たなエネルギー源を開発しきれていない現状においては、省エネは長期にわたり、かつ焦眉の問題である。

さて、モーダルシフトの推進により具体的にどのようになるのか見てみたい。まず図2-3-2を見ていただきたい。この図からもわかるように内航海運及び鉄道輸送の大型・小型トラック輸送に対する単位輸送量当たりのエネルギー消費の少なさについてのアドバンテージは非常に大きい。特に自家用トラックのエネルギー消費量が鉄道輸送に比べて実に20倍近いことは注目に値するであろう。現在もっとも身近な輸送手段となっている｢Door To Door｣などと呼ばれている個別小口輸送は、もっぱら自家用トラックによる輸送を主としておりその便利さは他の運送手段を逸しているが、同時にエネルギーの大量消費という点においても他に類を見ないこともこの図より明らかであろう。しかしながらこのことのみより｢自家用トラックの台数削減こそが急務である｣とするのはいささか早計にすぎる。この際重要なのは適材適所を確立させることであって、極論に走る愚は避けなければならない。現実問題として、鉄道輸送はターミナル等の付帯設備を必要とし(海運や大型トラックによる輸送も同様)フレキシビリティについても、自家用トラックに大きなアドバンテージがある。また、究極的には運送業とは小口配達である以上自家用トラックの必要性はなくならない。しかしながら、現在の自家用トラックが業務用大型トラックと同様のことまでもこなしているという事態については改善の余地があるであろう。

3　労働力不足について

労働力不足というものは、平成の世の中になってから運送業界において表面化してきた問題であり、また長期的に続くことが予想されているものである。すなわちトラック運転士、特に長距離トラック運転士の若年新人労働者の減少が深刻化しつつあり加えて少子化がそのことに拍車をかけている。また、就業時間の短縮を目指す労働基準法の改正により、期間の所定就業時間が40時間に設定され、さらにトラックの運転業務に対しては運転時間の制限、休養時間の設定などが規定されたため、運転士一人あたりの走行可能量は減少して、労働力不足は益々顕著になってきた。このことは運輸省発行の平成11年度版『運輸白書』においても｢･･･このため、今後の高齢化等の進展に伴う中長期的な労働力問題を考慮しつつ、環境への負荷がより小さい海運及び鉄道の利用による自動車輸送からの転換(モーダルシフト)を促進する。｣とある。若年新人労働者の減少は失業率が近年に類を見ない高さである現在においても続いており、その理由は取りも直さずこの職業が俗に言う3K(きつい･汚い･危険)に属するものだからである。さらに、この職は体力がかなり重要なものであるため高齢者の雇用も吸収できず、現在問題化している雇用のミスマッチの典型的な例となっているのである。しかしながら、モーダルシフトの推進に成功すれば、この問題に対する一つの解答となりうる。

現在業務用大型トラックによる運搬量は15トン/回がせいぜいである。しかしながら、例えば鉄道輸送に切り替えたとすると、最大650トン/回まで運べるため単純計算でトラック40台強分の荷物を運ぶことができる。このことはすなわち、同数のトラック運転士の数を減らせるということであり単純に考えるとモーダルシフトの前に比べて、 97.5%も運転士の数は圧縮できるのである。現実のデータとしては、図2-3-3を見ていただきたい。運輸省調査のデータで、平成9年度のものと少々古いがこのデータによると、従業員一人あたりの運送量は鉄道輸送でトラックの8倍強、内航海運に至ってはトラックの16倍弱になる。また、図2-3-4を見ると詳しくわかるが、内航海運における従業員一人あたりの輸送トンキロ数は、平成元年度の500万トンキロ/人から平成11年度には50パーセント増の750万トンキロ/人へと着実な伸びを示している。これはすなわち、内航海運の従業員の能率向上と、港湾における設備の革新を示しているといえよう。さらに図2-3-5を見ると内航貨物船の一隻あたりの平均総トン数が平成元年度の396総トンから、平成12年度には4/3倍にあたる527総トンまで拡大していることが読み取れる。このことは、前掲の図2-3-3と加えて内航海運全体において輸送の効率化が進展していることを示しているであろう。

4　おわりに

これまでの話でモーダルシフトの推進と資源･労働力不足との繋がりがおぼろげながらお分かりいただけたと思う。我々の中には漠然とした先入観として、トラック運送から海運･鉄道輸送への変換において、コストの面においてはアドバンテージがあれども、エネルギー面においてはさしたる差が見られないというものがありがちである。しかしながらこれまでの話により、そのことは単なる幻想にすぎず、エネルギー面においては無論のこと現在何かと取り沙汰にされがちな少子化問題にも対応しうるということが新たに理解頂けたであろう。

現在日本においては化石燃料の枯渇を見据えて、急ピッチでエネルギー面での石油依存という現在からの脱却を図っている。それは、トヨタ自動車開発の｢プリウス｣の発売であったり、各地電力会社における風力・原子力発電所の増設であるといったような形で人々の目の前に徐々に姿をあらわしつつある。しかしながら、このようなことは一朝一夕で行われるものではなく、また本文中でも述べたように過度に石油のみに頼ってきた日本社会においてはなおさらのことであろう。それゆえ、マクロ的な政策もさることながら、身近な場所におけるミクロ的なところの石油依存の脱却ということも、日本社会は求められている。自分はそのようなことの対策の一つとしてのモーダルシフトというものを見てきたが、ここにおいて、モーダルシフトの推進はその面において非常に有用であるという認識をさらに深めたように思う。しかしながら、モーダルシフトの推進はいまだに途上かつ未熟で、それゆえまだ改善の余地があろうという考えも抱いたのも事実である。

例えば、JR貨物における輸送効率の限界効用はいまだ高位置にある。しかしながらそれが改善されないのはひとえに会社の財源不足にあり、そのような部分での政府と民間の協力はいまだに不十分であろう。ただ、何度も述べているようにモーダルシフトはいまだ発展途上なのであり、そのことは裏を返せばいまだにその実力は未知数であるともいえよう。自分としてはその未来が暗くならないことを願ってやまない。

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Last modified:2008/9/23

一橋大学鉄道研究会 ikkyotekken@yahoo.co.jp

第２部 モーダルシフトの効果

第３章 資源・労働力不足について

1 はじめに

2 省エネについて

3 労働力不足について

4 おわりに