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参考にさせていただいたのは財団法人交通エコロジー・モビリティ財団(日本財団支援)が 「モーダルシフトに関するアンケート」として1998年に実施したものである。 対象企業はモーダルシフトをこれまでに実施した事業者のうち48事業者。
転換理由で最も多かったのは「輸送コストの低減」であり、9割近くの企業が回答した。 次に「物流システムの見直し」、「地球環境問題への対応」と答えた企業が7割程度に上った。 また「到着時間の正確性の確保」、「輸送時間の短縮」という輸送サービスそのもの質的改善につながる項目に期待する企業も それぞれ27%、23%と一定程度に達した。
また、日通のアンケート調査によっても「モーダルシフトのための条件」と称される211企業対象のアンケートで 「輸送コストが低くなる」ことを条件としたのが9割弱に達した。 「輸送時間の短縮」を条件として求める企業も鉄道で17.6%、船舶で13.0%になった。
一方でモーダルシフトの主要な利点とされている「人手不足の解消」を期待している企業は調査48企業中0企業とまったくなかった。 これは景気低迷の中でトラックドライバーの確保が容易になっていることを示しているといえるが、 長期的には少子化の影響で労働力不足になることが予想される。 長期的な視野にたった企業経営が不況で困難になっているといえる。
輸送品目として多いのは圧倒的に工業製品である。 特に機械工業品、化学工業品が多くなっている。 農水産品など鮮度を優先するものは当然として、林産品までも含めた一次産品のモーダルシフトは少ない。 食料工業品も含め、生産工程が全て終了した段階での貨物がシフトされる傾向が強い。
転換される事例には輸送頻度が比較的高いものが多く、「ほぼ毎日」発送しているものが36%、 「2〜3日に1回」発送しているものは28%となっている。 それだけ輸送ロット(単位)が大きい貨物が多い。
実際に転換される輸送モードとしては「トラック−鉄道」が91件中50件と過半数を占めている。 また「トラック−長距離フェリー」は19件で、ほかの貨物船を併せると30件となっている。 現在船舶に関してはRORO船、国際貨物で一般的なコンテナ船なども活躍しているが、それでも長距離フェリーのシェアが高い。 これは「トラックを積み込んで出すだけ」の単純な作業のため荷扱いの時間が短いこと、 従来のトラック輸送のネットワークに適合しやすいことが理由としてあげられる。
モーダルシフトが行われる輸送区間は当然ながら大量の輸送需要がある区間、 そして鉄道貨物ターミナル・港湾施設が整備されている区間が大半である。 メインとなるのは「太平洋ベルト」、「北海道→本州」の二つの軸である。 前者は首都圏と近畿・中国・四国・九州の間の輸送を指すが、特に東京と大阪・九州の間の利用が目立つ。 東海道線においては線路容量が逼迫している区間が多く、JR貨物としても各旅客会社のダイヤのすき間を縫うような列車設定が多い。 このため増発は容易ではなかった。 そこで公的助成により従来の1000トン牽引列車を1300トン(26両編成)牽引列車に長編成化を実施。 この列車を1日最大50本程度まで増強した(平成10年完了)。 しかし、依然として荷主の都合のよい時間帯に需要が集中していてさらなる増発も期待されているが、 現在のところ対応策はとられていない。
北海道輸送に関してはトラック優位の日本の物流で特異な状況にある。 これは北海道が唯一トラックで直接本州とアクセスできないエリアであることによる。 連絡には函館−青森間などの海峡を渡るフェリーなどがあり、ここを所要2時間から3時間程度で結んでいる。 一度船に乗らなければならないのでトラック輸送における時間的優位はあまりない。 そこで大洗−苫小牧などの首都圏・関西圏へ直行する長距離フェリーや、 青函トンネルを有するJR貨物の首都圏・関西圏方面への列車が幅を利かせている。 最近では函館の五稜郭から東京貨物ターミナルまで直通できる高出力交直流機関車EH500が投入されるなど、 更なるスピードアップが進んでいる。
確認しておきたいのは現在のトラック輸送ではすべてのトラックが 最速の手段で出発地から目的地へと到達する輸送を行っていないということである。 「首都圏→福岡」1200kmを例に取れば最速手段(全区間高速道路・途中SAでドライバー交代)ならば18時間で到達可能である。 しかし、実際には一般道経由によってコスト削減を図る輸送も当然あるわけで、この場合倍近くの34時間がかかる。 一方、この区間の鉄道の平均主要時間は18時間であり、荷主から貨物取り扱い駅へ(または逆) のフィーダー輸送がそれぞれ3・4時間かかることを考えるとトータルで25時間程度の輸送になる。
所要18時間のトラックとは競争不可能であるが、34時間の輸送とであれば十分に鉄道、 そして後述する新型高速船TSLも対抗手段となりうるのである。 そのためには鉄道・船舶ともに荷主にとって都合のよいダイヤを設定する努力が必要である。 輸送実験の中には輸送時間80時間のうち35時間が駅での待機時間という輸送(徳島→高崎)もあったほどであり、 ダイヤ調整によって改善されることはまだたくさんあるといえる。
また時間に余裕を持った輸送ほど鉄道・船舶輸送に切り替わる傾向が強いが、 そのなかでも多いのは同一企業内での倉庫間輸送である。 輸送用のコンテナを「倉庫」の一種として捉えている企業も多く、こうした企業は駅での荷役時間が長くなっても気にしていない。 自社間での輸送であれば発送側が着送側に迷惑をかけることもない。 自社内ならばモーダルシフト実験も行いやすいので、今後はこの分野からシフトが進むと考えられている。
トラックでの輸送に比べて、鉄道での貨物輸送で見直されてきているのは輸送中の製品(ケース)への損傷が少ないことである。 これは鉄道の揺れの少なさに起因する。 (もっともこれは整備状態のよい幹線の話であるが。) 一方でレールから出た鉄粉が製品に付着した事例もあり、そのような細かいところへの配慮を求める企業も少なくない。 また、船舶での輸送では、悪天候時における船舶の揺れからくる製品の損傷が懸念されている。
また鉄道・船舶ともに共通する懸念材料として運休時の代替輸送手段の確保があげられる。 トラックならば輸送ルート上で通行止めの区間が発生するなどの事故がおきても、 「無数」ともいえるほどの迂回ルートが存在し、目的地に到達できないという事態はあまり発生しない。 鉄道ではたとえば東北線内で事故が起これば常磐線と迂回ルートでの運行が行われるが、この切り替えには2・3日を要することが多い。 船舶の運行も非常に天候の影響を受けやすく台風シーズンには2・3日出航が見合わされることも多い。
このような中長期的な運休時にはトラックによる代行になる。 しかし一度トラックを削減した後に再び代替運送にこれを活用するには困難が伴う。 特に鉄道・船舶事業者がどこまで確実に代替輸送できるかは未知数である。
国鉄末期時代から開発が進められた輸送方式。 これはコンテナ貨車に直接トラックを積み込む輸送方式で、26m貨車1両に2台のトラックを積み込む。 開発当初のバブル景気の影響から運送業者からは「トラック運転手の削減につながる」と反応はよく、事実輸送コストは削減された。 しかし、バブル景気崩壊を受け、トラック運転手の賃金は低下。 加えてトラック自体を列車に積み込むことも非効率的とされた。 1996年度には14区間、1日あたり364台のピギーバック輸送がなされるに至ったが、1998年にはその利用は半分程度に落ち込み、 大手事業者(西濃運輸・福山通運)を中心に撤退が相次いだ。 JR貨物誕生後は1両に3台積載できるように新製された特別トラックがつくられたが、 これも数台が試作されただけで開発は中止された。
トラックのトレーラ部分のみを切り離し、直接鉄道用台車を取り付け、線路上を走行できるようにしたもの。 荷役スペースが狭くてすみ、積み替え作業が不要なことがメリットとされている。 1950年代にアメリカで開発された方式で、日本では95年度から97年度にかけて官民合同で検討委員会が組織され、 実用化試験が行われた。 3両連接構造で時速110kmを想定した試作車が制作されているが実用化には至っていない。
トラックのコンテナを直接鉄道貨車に載せる方式。 日本では1997年から試作車が制作され、1998年には国の支援を受けた「スワップボディ輸送の実証実験事業」が開始されている。 1999年4月より東京貨物タ−福岡貨物タ間で4個のコンテナが実験輸送されている。 ヨーロッパではすでに30万個以上のスワップボディが輸送されており、 日本でも数々の新輸送方式の中で一番実用化が近いとされている。 トラック−鉄道の積み替えの際は「リーチスタッカー」と呼ばれる大がかりで高価な機械が必要となる。 そのため主要駅のみに投入されることが想定されている。 この方式の最大のメリットは現状のトラック側の設備をほとんど変えることなく導入できることである。 試作コンテナもトラックの規格を基本にしている。
1999年9月から東京−苫小牧航路にブルーハイウェイラインの「さんふらわあ とまこまい」と 川崎近海汽船の「ほっかいどう丸」が就航した。 航速能力は従来の20ノットから30ノットに引き上げられ、所要時間は30時間から20時間へと大幅に減少した。 この結果函館−青森間のフェリーを介したトラック輸送と同等またはそれ以下の所要時間を実現し、 トラックとの競争力が大幅に強化された。
ロールオン・ロールアウト船の略。 トラックが直接船の中に入り、積み荷の積み卸しをできる船。 コンテナヤードの用地が節約できるほか、荷役作業が単純・迅速に可能にできるメリットがある。 現在では内航海運に投入されている貨物船の半分程度、特に1000kmを越える長距離航路の大半がRORO船に切り替わっている。
現在国土交通省、船舶業界が官民合同で開発中の超高速船。 現在、運用されている貨物船やフェリーは時速15〜30ノット(28km〜56km)だが、 TSLはその倍の時速50ノット(時速93km)を開発目標にしている。
これは従来の船舶とは異なり、船の底に"おわん"をふせたような構造にして、 その空間に約1.1気圧の空気圧をかけて船体を浮上させる方式をとっている。 従来ホバークラフトなどでは採用されていたが、大量の貨物を運ぶことは想定されていなかった。 浮上走行により、海面の抵抗を受けることが少なく高速航行ができるほか、 荒れた海面でもその影響を最小限に抑えた安全運行ができるとされている。
TSLは1989年から運輸省主導の国家プロジェクトとして研究がスタートし、1994年には実験船「飛翔」が完成。実証実験が行われ、 時速40ノットではあるが技術開発の目標は達成されている。 1997度には「飛翔」が改造され、静岡県の防災船(東海地震に対応したものと思われる)「希望」に改造された。 また平常時には清水−下田間カーフェリーとして両区間を1時間30分で結んでいる。
来年度中にはTSLの実用化第1号が就役予定である。 TSLはまだ新規の技術なので船体の建造には非常に費用がかかる。 そこでTSL保有管理会社を民間のほか日本政策投資銀行・運輸施設整備事業団・造船業基盤事業協会(国の一般会計から助成) の出資で設立し、TSLを一元管理して運用することが合意された。 今後海上運送会社はTSLをリースしてもらう形で高速海上サービスを利用することになる。
川崎市は人口110万人の都市であるが、その面積は狭く東西に細長い都市構造になっている。 市内で発生したゴミは東側の東京湾に面した浮島地区の処理センター・埋立地に運ばれる。 しかし、東京と横浜に挟まれた川崎市は市内を南北に縦断する交通網は整備されているものの、東西の道路網は整備が十分でない。 このため20kmあまりの距離をトラックで往復輸送するのに1日かかることになる。 これでは大気汚染が深刻化し、作業員の労働効率も悪くなる。
そこで市内を東西に走る武蔵野線の梶ケ谷タから神奈川臨海鉄道の末広町まで ゴミのコンテナ輸送が1995年10月からはじめられている。 1日に一般ゴミ・焼却灰・粗大ゴミ用のコンテナがそれぞれ20個ずつ・合計60個輸送されている。 コンテナは専用のものが川崎市のゴミ収集車の技術を駆使してつくられた。 各貨物駅からゴミ処理センターまではトラックがピストン輸送をしている。
JRは当初食品を運ぶ列車も数多くあることから当初難色を示したが、異臭が漏れるなどの問題は起こっていない。 むしろ、毎日まとまった輸送量があるため、収益率こそ低いものの貴重な収入源となっている。 今後はほかの地域にも発展させたい考えであるようである。
JR貨物には自動車代行駅と呼ばれるものが存在する。 これはかつて貨物ヤードが存在し、貨物列車の取り扱いをしていた駅が、 輸送需要の減少により貨物列車の運転を取りやめてトラックでの代行輸送をするようになった駅である。 最寄りの鉄道貨物駅までトラックで荷物を運び、そこから全国へ向けて荷物を発送させるシステムである。 運賃は従来通り、トラック輸送分も含め鉄道貨物運賃として設定されている。
1日1本しか列車がこない貨物駅を存続させるよりはある程度の規模を有した貨物駅に輸送を集約させ、 代行駅からはトラックによる小単位・多頻度運行を行ったほうがサービスアップになるという考え方である。 また積み替え・入れ替え作業が簡素化されることにより、常駐する駅員の削減にもなり、 トラック運行にかかる費用を加味しても合理化が可能というわけである。
現在、大牟田(鳥栖まで代行・以下同様)、糸崎(東福山)、豊橋(西浜松)、新守山(名古屋タ)、八王子(梶ケ谷タ)、 東三条(新潟タ・南長岡)、東福島(郡山タ)などでかつての貨物列車が廃止され、代行輸送が実施されている。
ヨーロッパではオフレールステーション(ORS)と呼ばれる貨物ターミナルが機能している。 これは従来から鉄道輸送が存在しなかった地域でも、鉄道輸送サービスを利用できる。 日本でも1995年ごろから研究が始まり、2000年10月に埼玉県羽生市において実証実験が開始された。 これは羽生市の東北道インター付近に貨物ターミナルを設置し、周辺地域から集まった荷物を集約し、 より大型のトレーラによって越谷・宇都宮の両鉄道貨物ターミナルにピストン輸送をして両駅から全国に荷物を発送するものである。
ORS荷主にとってのメリットは鉄道の遠距離逓減運賃が設定されることにより、コストの高いフィーダー輸送の距離が減り、 コスト削減ができることである。 またJRにとってはフィーダー輸送がたとえ赤字になっても、 長距離幹線輸送のほうで収益をあげるという「損して得とれ」の発想であると思われる。
小口化などの流れもあり、現在の物流は複雑多岐にわたっている。 モーダルシフトが成功する例もあれば、失敗する例もある。 求められる輸送時間・コスト・安全性の条件がそれぞれ違うからである。
今後重要なのは個々の貨物輸送の特性を見分け、各輸送形態にとって最も効率的な輸送モードを選択するノウハウであろう。 また、最適輸送モードの選択の上で重要なのは高度化された物流管理システムである。 昨今のIT化の進展により、 日通・ヤマトなどの大手運送業者では伝票による管理では把握しきれなかった個別の荷物の動向が正確に把握できるようになっている。 これまでに蓄積されたノウハウ・情報の面ではJR貨物・海運専業者は太刀打ちできないと思われる。 モーダルシフトに向けた技術開発自体も、 鉄道・海運輸送にトラック輸送のノウハウを生かす形で従来のトラック事業者がリードしている。
結局モーダルシフトの牽引役はJR貨物や海運事業者ではなく、 トラック輸送をここまで大きく成長させた張本人である大手トラック事業者であり、 今後は「複合物流業者」としてますますその傾向が強くなると思われる。
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Last modified:2008/9/23
一橋大学鉄道研究会 ikkyotekken@yahoo.co.jp