この文書に関する一切の権利は一橋大学鉄道研究会が保有します。 無断複製・転載を禁じます。
今年の研究テーマは「合理化とサービス」です。 日本の企業はバブル崩壊後、まるで合言葉のようにリストラ(合理化)を行ってきました。 これは大きな社会問題にもなっています。 リストラは企業の経営を引き締め、維持させるために必要なことです。 しかしリストラをする、すなわち余計な経費を省こうとするあまりサービスがおろそかになれば、顧客が離れますます経営が苦しくなるかもしれません。 それは戦争や恐慌でもない限り、不景気であろうとも顧客はより一層のサービスの拡充を求めるからです。 また企業内部では人員が減っても仕事の絶対量が減らないため、一人当たりのノルマが増大し、残業や休日出勤など時間外労働が増加するうえ、 それは大抵の場合ベースアップや手当ての増加につながらないため、モラルハザードにつながる可能性があります。
ではそれが鉄道会社の場合はどうなのか、というのが私たちの最初の関心でした。 それが利用客へのサービスの低下につながっていないか、そしてそれは正当性のある合理化なのかをこの研究で見てみました。
鉄道を経営するためにはさまざまな経費がかかりますが、特に線路の敷設という莫大な初期費用がかかります。 そのため最初から多額の負債を抱えて経営しなければいけません。 したがって安定的多数の乗客がなければ赤字を減らせないどころか、ますます赤字が膨らんでしまいます。 そのため鉄道会社はさまざまなサービスを拡充させ、利用客の安定的確保を図っています。 しかし乗客が確保できない場合、やはり合理化を行ってきました。 第1部では、これら合理化の具体例を見ていきます。 第1章では合理化の代表的手法である人員削減・機械化による能率化として、鉄道運転のワンマン化・自動改札の導入を取り上げます。 第2章では事業の究極の合理化である縮小・廃止として、赤字ローカル線問題を取り上げます。
第2部では、赤字ローカル線問題に話題の中心を移し、鉄道会社が合理化を行わなければならない背景を見ていきます。 第1章では、幹線とローカル線それぞれの赤字発生の原因や状況の違いから、赤字ローカル線を廃止することの正当性を考察します。 第2章では、鉄道会社の経営努力だけでは打開策をなかなか見出せない、過疎化や地域産業の衰退といった構造的な要因を考察します。
第3部では第1部と第2部を踏まえて、鉄道会社の行う合理化策の正当性と今後の展望を考察します。 鉄道会社が一般企業であれば、極端な話倒産しても損失は株主の出資額の範囲内に限定されます。 しかし鉄道のように公共性・公益性の高い事業の場合はそう簡単には行きません。 公共性を守っていくのか、合理性を重視するのかというジレンマが生じます。 その点を鉄道会社と利用者の両方の視点から考察します。
以上簡単に今回の研究を振り返ってみましたが、詳しくは本文に目を通していただきたいと思います。
この研究誌はご覧の通り簡易製本(手作り)となっておりますが、これは一人でも多くの方に当鉄道研究会の研究活動、 および取り上げる研究対象に関心を持って頂けるよう、研究誌の無料配布を続けているためです。 約半年間の研究の総決算としてまとめ、印刷・製本と部員が総掛かりであたってきました。 ぜひ御一読のうえ、ご意見・ご感想を当鉄道研究会までお寄せください。
2000年11月 一橋大学鉄道研究会 部長 齋藤 純平
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Last modified:2008/9/23
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