第2部 周囲との連携


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第2章 まちづくり

ここでは交通ターミナルを中心としたまちづくりの際に、利用しやすい交通に関連して注意すべきいくつかの点について考慮してみたいと思う。 また交通ターミナルについては、鉄道の駅を想像するとわかりやすいことが多いと思われる。

1. 交通ターミナルまでのアクセス

(1) 容易なアクセス手段の確保

交通ターミナルへのアクセスがスムーズであることは、交通全体がスムーズであるために重要なことである。 そして容易で確実なアクセス手段があることはそのためにも重要なことである。 特に鉄道の場合、駅にアクセスするためのバスやLRT(Light Rail Transit:路面電車が進化したもの。 本誌第1部の第3章にて詳述)などの軽交通の整備は不可欠である。 また駅前で駅へ直接アクセスできる地下道や歩道橋を整備することによって、交差点で詰まることがなくなるため、歩行者にとって移動がスムーズになる。 駅前は最も人が集積する空間の一つである。 だからできるだけ直接に駅に移動できる効率性が求められる。

(2) 移動しやすい道路

道路建設のあり方によっても、交通の利用しやすさはかなり違ってくる。 利用しやすい道路とは、渋滞が少なく、信号などによるストップの回数や時間が少ないことであろう。 そのために、現在さまざまな対策が考えられている。 自動車交通の場合、最も有名なのが道路の連続立体交差化であろう。 連続立体交差は道路を上下に交差させるため、交通安全の面からも有効な策である。 また左折専用レーンの設置も数多く見られる。 これはその名の通り左折専用ではあるが、交差点における信号待ちが減るという効果がある。 その他に、青信号連動決定システムが採用されている例がある。 これは交差点における交通量をコンピューターで管理し、信号の変わる間隔を調節するシステムである。 これによって交差点の信号街による時間のロスを解消することができる。 また高速道路などの有料道路においては、電子式道路通行料徴収システムが有名である。 この制度は、クレジットカード大で大きな記憶容量があるスマートカードを、道路通行料のプリペイドカードとして使用し、それを差し込む小型の機械を車のダッシュボードに設置する方式となる。 ドライバーがスマートカードを差し込んでおくと、有料道路に入る際、入口のゲートから出されるマイクロウェーブをこの機会が感知して、スマートカードから料金を自動的に引き落とす。 カードが差し込まれていなかったり、残高が足りなかった場合は、ゲートに設置される連動カメラが車の写真を撮り、後に罰金が徴収される。 これは有料道路に料金所の設置を必要としないため、車の流れが流動的になり、渋滞の解消につながる。 日本でも試験的に行われているが、このシステムは個人情報の流出の危険性もあるため、プライバシー保護の観点から導入しにくい側面もある。

また歩行者や自転車で移動する人にとっては、安全の確保が重要になる。 そのために、歩道を広く取り自転車専用レーンを確保する以外に、歩道と車道の間の段差を解消したり、歩道橋やガードレールの設置を徹底することなどが考えられる。

これらの道路政策は、渋滞を解消し、安全性を高めるというメリットを持つ。 しかし日本において道路を新しく建設するには、すでに道路整備が充実している都市部においては、再開発が困難であるということ、そして多大なコストがかかるというデメリットもある。 さらに海外で行われるような政策が、日本のような圧倒的交通量の前に有効かどうかという疑問もある。 したがって日本の道路建設は、慎重に改善しなくてはならない問題であろう。

(3) 人や車の集積できるスペース

交通ターミナルへアクセスする人や車などが増加すれば、当然人や車の集積できるスペースの確保が不可欠になる。 まず人の集積に対応するには、乗降客に対応できるだけの駅前広場や歩行スペースを確保する必要がある。 また車に対しては、バス・タクシー・自家用車の集積できる駅前のロータリーが便利である。 また通勤などで車で駅まで来て、そこから鉄道や別の公共交通を利用する人のために、大規模な駐車場の整備を進めている例もある。 この駐車場整備政策はパークアンドライドと呼ばれ、欧米で良く見られるほか日本でも最近頻繁に見受けられる。 さてこれらのスペースの問題は、駅前広場や駐車場のスペースを実際に取れるかどうかにある。 特に日本においては、用地買収の難しさや再開発の困難さがある。 これらの根本的問題を解決しなければ、利用しやすい交通のためのスペースを確保していくことは難しいだろう。

2. 鉄道による交通分断の解消

(1) 北口・南口(東口・西口)の通行と土地利用

鉄道はそれ自体が交通を分断する大きなバリアとなり得る。 たとえば駅が存在すると、街は駅を中心に北口と南口に分断される。 そのため場合によっては反対側に回るために、大変な時間がかかることもある。 それを解決するには、駅に連絡口を設けたり、近くに地下道を設置するなどの手段をとる必要がある。

そのような物理的バリアとは別に、駅を中心とした街の土地利用というものを考えてみたい。 土地利用の目的は、商業地・工業地・住宅地・観光地などさまざまだが、単一の目的であるなら、駅を中心に人の流れにさほど大きな偏りは生まれない。 しかし利用目的が複数である場合、特に駅の北口と南口で目的が別れる場合、人の流れが一方的になる可能性がある。 たとえば北口が住宅地で南口が商業地の場合、その町の市民の買い物場所は、南口の商店である可能性が高い。 その際先に述べたように、北口から南口に移動する際に物理的なバリアがあれば、駅の存在による交通分断の影響はとても大きなものである。 しかし、もし北口に大きなショッピングセンターが存在すれば、北口の住民はわざわざ南口に回る必要が無くなる。 このように物理的バリアの解消だけではなく、偏りの無い土地利用によっても、バリアの解消がもたらされる可能性がある。

(2) 鉄道の高架・地下

鉄道の交通分断を解消する手段として挙げられるのが鉄道の高架化と地下化である。 まず地上の鉄道について考えてみると、線路の存在は交通を分断する大きな要因である。 その線路を横切るためには、踏切を渡らなくてはならない。 東京などの大都市の場合、通勤ラッシュ時になると列車は約2分という短い間隔で運行される。 そのためピークのときになると踏切は開かずの状態になってしまい、そこで相当時間、歩行者や自動車はストップせざるを得ない状況になる。 このような状況を解決するためには線路の上に橋を架けるか、線路の下にトンネルを掘ることなどが考えられるが、更なるハード面における政策として、鉄道の高架化・地下化が挙げられる。 鉄道の高架化・地下化のメリットは線路や踏切による交通分断の解消にある。 そして周りから障害物が進入する可能性が極めて低いため、列車も高い速度を出すことができる。 そのためこれは交通をスムーズにするためにとても有効な方法である。 一方高架線には用地買収のコストがかかり、地下鉄には建設や防災に多大なコストがかかるというデメリットもある。 したがって高架線や地下鉄の建設は慎重に臨まなければならない。

3. 建設の際の考慮

(1) 密集の解消と再開発の考慮

たとえば東京の都心のようにあまりにも建物が密集していると、建物の高さと道の狭さによって道がわかりにくくなり、交通に支障をきたす可能性がある。 したがって建物の過度の密集は、できるだけ解消していく必要がある。 そのためには大規模な再開発事業を行わなくてはならないのだが、その際にさまざまな困難を伴う。 たとえばそこが住宅地だったら、大量の人を立ち退かせるだけでも大変なことである。 また道路にまたがる場所なら、工事箇所の交通をストップ・迂回させなければならない。 よって再開発の際はできるだけ交通に歯止めをかけない配慮が必要である。

(2) 地形

街の地形はそれ自体が大きなバリアになり得る。 具体的には崖や坂道の存在が挙げられる。 崖の場合は、崖を切り崩して平坦な道を作る、トンネルを掘る、迂回路を作るといった打開策が考えられる。 坂道は特に歩行者にとって大きなバリアである。 そして単純な道路政策だけでは、バリアを解消しにくい地形である。 したがって完璧な対処は難しいが、対処例の一つとして、高架線の駅の高架口から坂の上まで動く歩道を設置した連絡口を設けている例がある。 この駅の地形は地上が谷になっているため、坂の上の繁華街に登るのに多大な労力を要する。 そのため連絡口の設置は非常に有効であるといえる。 しかしこの連絡口も、駅と坂との距離が離れている場合は、設置が難しいという問題もある。 このように地形の問題は些細なようで、まちづくりにおいては根幹的な問題であり、しっかりと吟味する必要がある。

これまで交通ターミナルを中心としたまちづくりについて考察してきたが、真に住みよい理想のまちづくりを実現するためには、交通の面だけでも多くの困難が伴うことが分かる。 しかしまちづくりの際には、環境・防災・景観など更に多角的視点が必要である。 また財政という大きく困難な問題もある。 都市計画を実現させるためには、これらの諸問題をクリアしていかなければならないだろう。


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Last modified:2008/9/23

一橋大学鉄道研究会 ikkyotekken@yahoo.co.jp