おわりに

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パークアンドライドは身近なもの

この本では実に遠くの事例のみをあげることとなったが、パークアンドライドとは実は身近なところで多く見られる。たとえば中央線の沿線で見れば、三鷹以西の一部の駅で無料の駐車場が解放されている。(もちろんJRを利用した場合のみだが。)中央線は北は西武、南は京王と競合している。中央と西武、中央と京王の中間地域は徒歩で駅まで行くのには少し時間を要する地域が多い。従ってバスや自家用車を利用することが必要になるのだが、たとえば京王と中央線の間に住む会社員がいて、本社は神田だとする。そのときにたとえバスの乗車時間が京王の駅にでる方が短いとしても、中央線の駅前には無料駐車場があるとすれば京王を利用するだろうか?中央線は乗り換えなしで都心に直通し、また自動車が使えるので駅までのアクセスはOn DemandでなおかつDoor to Doorである。もちろん経済活動において「安い」ということは重要であるが、それでも人によってはこのサービスに価格差を越えるメリットを感じる人もいるかもしれない。

この例は民間セクターがもっぱら自分の利益のために設定したものであると考えられる。公共セクターが音頭をとったものではない。このようにパークアンドライドに法的制度を導入する必要は常にあるわけでもない。逆に考えればパークアンドライドの可否は「乗り換えようとする」インセンティブにあるといえる。

「ツール」としてのパークアンドライド

上の例のようにパークアンドライドにふさわしいインセンティブを喚起できたとき、初めてパークアンドライドは実施の意味を持つ。近年続けられているパークアンドライド実験のうち、芳しい成果を上げられていないのは都市構造・都市環境・地形など交通の形態を定義する各々のファクターがパークアンドライドにあっていないからである。パークアンドライドはそれが1つの完結したシステムではない。むしろ「都市交通適正化」を目的とするTDMの一つのツールにすぎないのである。それぞれのmilieu(仏:環境)にあった適正な交通システムをツールとして問題を生じている領域に投下し、それをTDMのシステムの下に有機的にほかのツールと結びつなげていく。なにが統括システムでなにが道具か、それをふまえつつ決して逆さにならぬよう注意したい。

おわりに −パークアンドライドはどこへいくのか−

我々の研究は鎌倉市で実施されたパークアンドライド実験に対する素朴な興味から始まった。今顧みれば、なぜ十数年前からパークアンドライドは行われていたのに今まで興味がわかなかったのであろうか。それは鎌倉市が単にパークアンドライドとして実験を行ったわけではないからであろう。この実験には新鮮さがあった。住民参加、TDMによる上部コントロール....、1つ1つは以前からあるものだが、これを有機的に結びつけた鎌倉市の試みはまさに「総合交通体系」構築の名にふさわしい実験であった。その中でパークアンドライドが「適正なツール」として効率よく運用されていたからこそ、この実験は成功裏におわったといえる。その見事なまでの結果は我々の興味を惹かずにはおかなかった。最初はパークアンドライドの仕組みからはいったこのわれわれの研究も、自然発生的なパークアンドライドの存在、パークアンドライドの本質、そしてその地位がTDMの一つのツールにすぎないことを知るまでにいたった。それは我々が最初に抱いた新鮮な興味がどこから湧いてきたのかを教えてくれた。それは逆にパークアンドライドの進むべき道を示しているようにも思える。鎌倉市のように日本中でパークアンドライドが、適正でかつ「華麗」に実施されるように願って本研究の終わりとしたい。


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Last modified: 2008/9/27

一橋大学鉄道研究会 ikkyotekken@yahoo.co.jp