この文書に関する一切の権利は一橋大学鉄道研究会が保有します。 無断複製・転載を禁じます。
今年の研究テーマは、「パークアンドライド」です。皆さんは、パークアンドライドと聞いてどのようなイメージをお持ちになるでしょうか。「なに、それ?」、「う〜ん…、確か新聞にそんな言葉が載っているのを見たことがあるような…」といった感想を持たれる方が多いのではないでしょうか。私たち鉄道研究会の部内でも、パークアンドライドという言葉をある部員が口にした際、大半の部員はパークアンドライドという言葉を耳にしたことがある、あるいは漠然としたイメージを持っているという程度でした。そのため、上級生・下級生を問わず、まず交通関係の雑誌や過去の新聞記事の検索を通じて、パークアンドライドの概略・事例をつかむことから始めました。この過程で、日頃私たちが当たり前で変り様のないものとしてほとんど関心を寄せてこなかった毎朝・毎夕、あるいは毎シーズン繰り返される交通混雑を解決する有効な施策として、パークアンドライドが注目され、日本各地のかなりの都市や地域で実施されていることがわかってきました。また、一方で、パークアンドライドについての事例紹介を超えた分析や論評がごくわずかで、研究の道標になるべきものに欠き、限られた期間内に研究誌にまとめることにはかなりの困難を伴うことが予想されました。しかし、世の中にパークアンドライドについての研究が出されていないということは、逆に私たちの研究が先駆的なものとして、それなりの意義を持ちうるのではないか。また、研究対象についての文献不足は部員による実地調査で補っていけばよい。このような考えで、パークアンドライドについての本格的な共同研究に取り組むことになりました。研究を終えた今にして思えば、視野が狭く、思い上りめいたものを感じない訳にはいられませんが、研究当初はどうしようもない交通渋滞を解決する画期的な施策として、パークアンドライドがまぶしく感じられたというのが偽らざる感想です。
このような経緯から、研究は理論的からの検証、実際パークアンドライドを行っている都市・地域に出向いての実地調査、研究者の方から意見を伺い今回の研究を総括するまとめ、以上の3つに大きく分けて行うことになりました。このうち、実地調査はここ数年の一橋祭研究ではあまり積極的に行われておらず、今回の研究構成上の大きな特徴となっています。
実地調査は1年生部員に分担してやってもらうことにし、事前調査で判明したパークアンドライド実施都市(地域)から、神戸市・茨城県日立市・宇都宮市・金沢市・上高地・名古屋市の6つを調査することになりました。この中で、上高地は少し趣を異にし、国立公園内の観光地ということで、環境保護が前面に押し出され、1996(平成8)年からは通年マイカー規制という極めて強い自動車利用規制を伴う形でパークアンドライドが実施されています。一方、その他の都市は継続的実施・実験段階を問わず、都市内の交通渋滞緩和がパークアンドライド導入の主目的で、自動車利用の規制を伴わず、駐車場の設置等を行政側が行い、自動車利用者の自主的な公共交通機関への移行を促すという形をとっています。
この実地調査を通じてわかったことは、パークアンドライドが都市および周辺地域の地理的構造、通勤需要を発生させる産業構造など個別の状況に大きく影響されるということです。また、駐車場の整備・管理にしろ、バスの運行にしろ相当の費用がかかるわけで、どこまで行政が負担し、パークアンドライド利用者が負担するのかという財源面での問題の存在も明らかになりました。
他方、理論面の検証では、パークアンドライドの歴史や思想をはじめ、経済学の立場から検討を行いました。この中で、パークアンドライドは、それ自体独立した施策ではなく、自動車利用の急増が社会にもたらした時間的・空間的損失や環境面での悪影響をなんとかしようという都市交通適正化施策の範疇に含まれるものであること。そして、既存の交通システムの利用を前提に、限られた容量の中で交通需要の調整を試みる交通需要マネジメント(TDM)施策の1つであることが分かってきました。
この点については、山内・根本両先生とのインタビューにおいて中心的な話題となり、いまひとつパークアンドライドの交通施策としての意味付け、地位を明らかにできないでいた私たちにとって、これまでのパークアンドライドの捉え方に修正を迫る契機となりました。つまり、パークアンドライドは交通混雑緩和をはかる1つの手段であり、所与の条件に応じて自動車相乗り推進、商習慣変更の取り組み、ピークロードプライシング等とともに選択的に実施される。また、施策の成否は住民や企業との合意形成による面が大きいといった視点を研究に取り入れることになりました。
以上、簡単に今回の研究を振り返ってみましたが、詳しくは本文に目を通して頂きたいと思います。
この研究誌はご覧の通り簡易製本(手作り)となっておりますが、これは一人でも多くの方に当鉄道研究会の研究活動、および取り上げる研究対象に関心をもって頂けるよう、研究誌の無料配布を続けているためです。約半年間の研究の総決算としてまとめ、印刷・製本と部員が総掛かりであたってきました。是非、ご一読のうえ、ご意見・ご感想を当鉄道研究会までお寄せください。
最後になりましたが、研究の柱である実地調査をしっかりまとめ、印刷・製本でも率先して協力してくれた1年生部員7名に感謝します。また、一橋大学商学部の山内弘隆先生、根本敏則先生、神戸市・茨城県日立市・宇都宮市・金沢市・長野県安曇村・名古屋市の担当者の方々には、私たちの研究に貴重な時間を割いてご協力頂きましたことを、この場を借りて御礼申し上げます。
1997(平成9)年11月2日
部長 石井一郎
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Last modified: 2008/9/27
一橋大学鉄道研究会 ikkyotekken@yahoo.co.jp