第2部 実地調査〜日本のパークアンドライド

この文書に関する一切の権利は一橋大学鉄道研究会が保有します。 無断複製・転載を禁じます。


第1章 神戸市〜日本初の継続的パークアンドライド〜

1. 神戸市の地理的特徴

神戸市には、六甲山・摩耶山などからなる六甲山系が東西に走り、その南麓から臨海部に既成市街地が形成されている。その既成市街地は、幹線道路や鉄道など様々な都市機能が集中する市民生活、社会経済活動の場となっており、さらに南のポートアイランドや六甲アイランドの海上都市では大型港湾施設整備やコンベンション施設等の建設を図るとともに、良好な住環境の創造を目指している。神戸市の西部、北部ではニュータウンの開発が進み、現在、面積約548平方キロメートル、人口は阪神・淡路大震災により約10万人減少しているが、142万人となっている。神戸市のニュータウンは、ポートアイランド等の埋立用土砂の採取跡地やさらに西部の丘陵地(西神地域)、また、近年では神戸市北部(北神地域)に整備されてきており、昭和30年代から主に神戸市が公共ディベロッパーとして建設を進めてきた。1965(昭和40)年に西神地域4万人、北神地域5万人であった人口は、現在西神地域34万人、北神地域23万人と急激に人口が増加している。神戸市では、このようなニュータウンの開発に合わせて地下鉄の建設や新神戸トンネル等の道路整備を進め、人口の増加に対応してきた。

2. 神戸市の交通の現状

神戸市の鉄道網は、東西に長い既成市街地に大阪と神戸を結ぶ鉄道が3路線(JR・阪急・阪神)、明石方面へは2路線(JR・山陽)が平行に走っており充実している。広大な面積を有する西神地域や北神地域には地下鉄や神戸電鉄が走っており、主要駅からはバス路線もあるが、マイカーに頼らざるを得ない地域もある。

神戸市の幹線道路網は、東西方向の道路が既成市街地に集中し、南北方向の道路は六甲山が既成市街地と北神地域を分断しているため比較的少ない。

現在、神戸市の中心地である三宮と西神地域のニュータウンは、鉄道では市営地下鉄が三宮と終点の西神中央を30分で結び、道路では山麓バイパス等で接続する。また、三宮と北神地域のニュータウンは、鉄道では神戸電鉄・北神急行電鉄、道路では神戸三田線・新神戸トンネル等で接続する。

ニュータウンと既成市街地を結ぶこれらの道路は、朝夕のラッシュ時には大変混雑するため、道路の拡幅や新たな道路の整備を進めている。

3. パークアンドライド

この文章を書くにあたっては、神戸市都市計画局計画部計画課街路係の林さんのお話を参考にさせていただいた。

(1) パークアンドライド導入の背景

先に述べたように、神戸市は山がちな地形のため、西北神地域と既成市街地を結ぶ道路が少なく、既成市街地内での渋滞が問題となっていた。そのような状況の中で、1976(昭和51)年に北神地域と三宮を結ぶ新神戸トンネルが開通し、マイカーでは箕谷−三宮間が10分程度で結ばれ、トンネル開通と同時に開設された路線バスでも20分程度で結ばれることとなった。

そこで、神戸市は都市交通の専門家の意見を参考にした上で、1976(昭和51)年6月1日、この区間に試験的にパークアンドライドを導入してみることにした。これが神戸市におけるパークアンドライドの始まりである。

(2) 現在のパークアンドライド実施状況

[1] 駐車場の設置状況及び利用状況

1976(昭和51)年の箕谷以降、市内でのパークアンドライド実施場所は徐々に増えてきた。そして現在、西神地域では市営地下鉄の西神中央、西神南、伊川谷、学園都市、総合運動公園、名谷、妙法寺の各駅で、北神地域では神戸電鉄の箕谷、岡場の両駅とJR福知山線の道場駅で実施されている。これらの駅で整備されているパークアンドライド用駐車場は合計12か所、約4500台分になる。駐車場の建設費は全額神戸市が負担しているが、管理は民間の株式会社が行っているところもある。

駐車場の形態は、箕谷では新神戸トンネルの掘削土砂を利用して、谷間を埋め立てて造成した土地に整備されたパークアンドライド専用駐車場、その他の駅では立地上の問題で、箕谷のような専用駐車場を確保するのが困難なことから、駅施設に隣接するショッピングセンターや運動公園の駐車場となっている。ショッピングセンターや運動公園の駐車場は、休日やイベント日などの多客ピーク時を念頭に置いて駐車可能台数が決められているので、平日の昼間に満車になることはまずないと言ってよい。そこで、その平日の空き駐車場をパークアンドライド用として活用している。

料金は時間貸しが基本だが、パークアンドライドの利用者に対しては平日のみの定期券を発行している。また、車庫代わりとしての利用を防ぐために、営業時間外の夜間駐車には別途料金(1000円)を徴収している。

各駐車場の利用状況は極めて良好で、パークアンドライド利用に関しては常に満車の状態である。中には、定期券を買いたくても満車で買えない人達が「待ちリスト」に登録されて、空きを待っているといった駐車場もある。

なお、各駐車場の具体的な開始時期、収容台数、利用料金、利用時間の一覧表を次ページに載せたので、そちらも参考にしてほしい。

[2] パークアンドライドの「ライド」部分の輸送状況

各駅の駐車場に車を置いた人は、公共交通機関を使って三宮へと入っていく(ただし、JR道場駅に関しては、大阪方面への通勤が主となるのでここでは省略させていただく)。そこで、主要駅から三宮までの交通機関、所要時間、運賃、運転間隔を以下の表に示す。

岡場駅以外は、おおむね使いやすい運賃、運転間隔になっている。なお、岡場から三宮までの運賃がこの中で飛び抜けて高くなっているのは、谷上から新神戸までの北神急行電鉄の運賃が高くなっているためである。北神急行電鉄は最近開業した鉄道で、六甲山を南北に貫いていてかなり便利なので、この値段も致し方ないだろう。ただし、この鉄道は今一つ採算がとれていないようで、かなり頻繁に運賃値上げが行われるので、今後もさらなる値上げが行われる可能性はある。もっとも、いくら値段が高くてもそれなりの利用者さえいれば問題はない。

[3] 実施することで生じた課題・問題点

現在、神戸市には約4500台分のパークアンドライド駐車場が整備されているが、それらがすべて本来の目的に使われているのかという疑問がある。この疑問は大きく二つに分けられる。

一つは、駐車場に車を置いてから公共交通機関で三宮方面に向かわずに、その駐車場の周辺で働いている人がいないかということである。もう一つは、利用者の居住地域にかかわる問題で、神戸市におけるパークアンドライドシステムは、ニュータウン内でバス網が行き届いていない地域の居住者のためのものであるのに、バス網が行き届いている地域の人までもが駐車場を利用してしまっているのではないかということである。

後者に関しては、以下のようなデータが出ている。

上の表の中で、「西神住宅団地」はバス網が行き届いている地域、「西神住宅団地外」はバス網の行き届いていない地域である。また、「近隣市町等」は明石市、三木市、加古郡稲美町を指している。

これをみると、駐車場利用者の約3分の1がバス網の行き届いている地域の居住者となっている。神戸市としては、これらの人々はバスを使って駅まで行ってほしいというのが本音だろう。そうすれば、バス網の行き届いていない地域の居住者が駐車場を利用できる機会も拡大するし、バスの収益も上がる。

今後は、上にあげた二つのことを解消し、駐車場を本来使うべき人が使えるようにしていくことが課題となる。

4. 結論

神戸市は山がちな地形のため、道路が渋滞しても新しい道路をそう簡単には建設できない。そんな弱点をパークアンドライドを行うことによってある程度は解決しているといえるだろう。もちろんパークアンドライドを行うからといって渋滞がすべて解消できるというわけではないのだが、費用面、環境面を考慮すると、現状ではこの方法が最もよいと思われる。

また、今のところ新たな場所でパークアンドライドを実施する予定はない。それよりも、市役所では現在の状況をより良くすることと、利用者にアンケートに協力してもらい、評価を確かめることを第一に考えている。


→第2章「日立市〜高速自動車道路の利用」へ



この文書に関する一切の権利は一橋大学鉄道研究会が保有します。 無断複製・転載を禁じます。


Last modified: 2008/9/27

一橋大学鉄道研究会 ikkyotekken@yahoo.co.jp